世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機/三橋貴明
【2014年世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機/三橋貴明/13年11月初版】
1月20日号の日経ビジネス(シリコンバレー4.0)を読んでてふと考えてしまった。マイケルポーターが昨年末安倍総理と会談した時を振り返り、安倍総理を非常に高く評価していました。安倍政権の規制緩和路線、いわゆる新古典派経済学的な動きへの評価です。え、あのファイブフォースの聡明なマイケルポーターもかと。スティグリッツやクルーグマンとは反対側の考え方です。
なんでだろうと考えてて思ったのは、人は経験したことしか理解できないのかなぁと。日本以外はデフレを近年経験していません。これまでずっと数%のインフレでした。だからデフレ時にも規制緩和、緊縮財政というデフレ化政策しか出てこない。
三橋氏も本書で指摘しています。
「デフレ時に何故デフレ化政策である新古典派経済学が推進されるのか。戦後の世界経済はデフレと無縁であり、経済学はインフレ抑制策として発展した。これが政治家や政策担当者たちがデフレ環境下にありながら、デフレ化政策を推進してしまう理由の1つであろう」
現在のアメリカ、ヨーロッパ、日本は民主主義vs新古典派経済学の戦争だそうです。
フランスのオランド大統領は「われわれの敵には名前がなく、顔もなく、政党にも属していません。選挙の洗礼も受けたことがありません。それでもわれわれを支配しています。その敵とは金融界です」グローバル金融こそが真の敵であると明言し、フランス国民は拍手喝采した。
オバマ大統領は08年の大統領選で「北米自由貿易協定は投資家を利するだけだ。自由貿易協定には労働者と環境の保護規定を盛り込むことが必要だ」と訴え当選した。
イタリアのレッタ首相は「緊縮財政による死を終わらせる」と宣言した。
安倍首相は「新しい国へ」のなかで「ウォール街から世間を席巻した強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国は瑞穂の国にふさわしい市場主義の形があります」と書いている。
ところが現実は何も変わらなかった。フランスはユーロという新古典派経済学をベースとした(読書メモで後述)構造にはまり込み、10%を超える失業率で身動きが取れない。イタリアは12%を超える失業率の中、緊縮財政が継続され、国民は暴動を起した。アメリカはオバマ大統領はTPPを推進し、国内では財政均衡主義に基づく債務上限引き上げをめぐり、数ヶ月ごとに政府機関が閉鎖されかねない事態を招いている。日本ではTPP、消費増税、法人税減税、労働市場の自由化、電力自由化、農業医療分野の規制緩和、公共投資のコンセッション方式、規制緩和特区など当初の公約とは真逆の路線を歩んでいる。
良書です。とくに第6章で戦後のマクロ経済の流れが俯瞰できる。そのまま教科書にしてもいいくらいわかりやすいです。第6章だけでも読む価値があります。
以下にその他の読書メモを。
<ユーロは1%の富裕層のためにつくられた>
イギリスの大手紙ガーディアンに衝撃的な記事が掲載された。「ロバートマンデル、ユーロの邪悪なる天才」というタイトルで、共通通貨ユーロの設計者であるマンデル教授(コロンビア大学)の構想をスクープした。マンデル教授は新古典派経済学の権威で、金融緩和論者が好むマンデルフレミングモデルの生みの親。
『選挙で選ばれた政治家からマクロ経済政策を奪い、規制緩和を強制することは、ユーロ構築にさいした計画の一部だ。ユーロが失敗しているという考えはあまりにもナイーブ(幼稚)である。ユーロは1%の富裕層が当初から計画していたとおり、予定通り正しく機能している。ユーロは危機のときにこそ真価を発揮する。為替レートに対する政府の干渉を排除し、不況期にケインズ的な金融財政政策をとりたがる政治家を妨害できる。「政治家の手が届かないところに金融政策を置くんだ。金融政策と財政政策が使えないとなると、雇用を維持する唯一の解は、競争力を高めるために規制を緩和することのみになる」マンデルの言う規制は労働法、環境規制、税制など。すべてはユーロによって洗い流され、民主主義が市場価格に干渉することは許されなくなるだろう』
<新古典派経済学の理想の税制>
「法人税ゼロ、所得税ゼロ、税金は人頭税のみ」が新古典派経済学の理想の税制。人頭税とは国民1人あたりの行政コストを均等に負担させる税だ。年収1億円であろうが、100万円であろうが同じ金額の税金が課せられる。とはいえ人頭税の導入は政治的に不可能に近い。実際、戦後初の新古典派経済学的な政治家であったサッチャーは、1990年に人頭税の導入を図ったため支持率を大きく失って退陣した。(イギリスの人頭税は93年に廃止された) 所得が少ない国民は激怒する。マジョリティは所得が少ない国民だ。現実的には「法人税ゼロ、所得税ゼロ、税金は消費税のみ」というのが美しい税制の妥協案になる。
<フィッシャー方程式>
実質金利=名目金利―期待インフレ率。実質金利は名目金利から期待インフレ率を差し引いたものに等しい。名目金利がゼロの場合、期待インフレ率が2%とすると実質金利はマイナス2%になる。実質金利がマイナスになれば、企業の設備投資は増えるはずだ。
<ワシントンコンセンサス>
新古典派経済学の考え方は、ワシントンコンセンサスと総称される。ワシントンコンセンサスとは、IMFが財政破綻(返済不能)した発展途上国に押し付ける処方箋で、緊縮財政と規制緩和によりインフレ率を抑制し、為替レートの暴落を押しとどめようというデフレ化政策である。
<金融政策だけでは不十分>
FRBが量的緩和しても、アメリカの失業率は7%を切れない。FRBにせよ日銀にせよ発行した通貨が何に使われるか管理することはできない。わかりやすい例で言うと、母親が息子に仕送りを送っても、それは何に使われるかわからない。むろん母親は息子に健康的なものを食べて元気に過ごしてほしい。ところが息子はそれを悪い遊びに使ってしまうかもしれない。母親が目的を達成したいなら、お金ではなく健康的な食べ物を送るべきなのだ。息子に支出させるのではなく、みずから健康的な食べ物を購入し、宅配便を呼べばいい。
発行したドルや円が投資家に借りられ株式に投じられても、雇用や賃金は増えない。だからこそ中央銀行が発行したお金は政府が国債で借り入れ、国内の投資や消費に回さなければならない。